流れ雲

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幸せがつづいても、不幸になるとは言えない
 不幸がつづいても、幸せが来るとは限らない


安藤彩也香は・・・泣いていた。
来店されるなり、高橋のお婆ちゃんが頭を下げた。
「ユタカさん、ありがとうね。おかげで、
お爺さんも天国に安心して行けましたよ」
高橋のお婆ちゃんの旦那さんが亡くなってから、
もう2週間が経つ。
通夜にも告別式にも参列させてもらった。
彩也香にとって、思い出深い夫婦だった。


『ずっとずっと決めていたこと』
※実際にあったエピソードです。

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ドラッグユタカ滋賀県の店舗に着任早々、
高橋のお婆ちゃんと仲よくなった。
畑で採れた野菜だと言って、
買い物に来るたび持って来てくれた。
アルバイトの子たちも含め、
みんなで分けていただいた。
毎月、一度、高橋のお婆ちゃんは
大量の買い物に訪れた。
消毒液、脱脂綿、ビニール袋、介護用のおむつ
・・・。そう、お婆ちゃんは自宅で、
脳梗塞で倒れた旦那さんの介護をしているのだ。
もう7年になると、前任の店長から聞いていた。
息子さん二人は、家を出て遠くで働いているらしい。
長男さんからは「一緒に暮らそう、東京へ来ないか」と
言われているが、頑なに拒んでいると耳にした。
お爺さんが、自分の生まれ育った家で
死にたいと言っているのだという。
老々介護。辛くないはずがない。
でも、高橋のお婆ちゃんは、けっして暗くない。
お店にやってくるなり、いつもケタケタと笑う。
「こんな形のキュウリができてな。
みんなに見せようと思って持ってきたんよ。
チ◎ポコみたいじゃろ」
学生アルバイトのユージの「アソコ」に、
そのキュウリを押し付けては、また
ケタケタと笑う。ところが、
そんな元気のかたまりのお婆ちゃんが
畑仕事をしていて、腰をやられてしまった。
「車の運転ができないので、
持って来てくれないか」と電話があり、
彩也香は心配になって飛んで行った。
部屋には、民生委員さんと、
ヘルパーさんが来てくれていた。
「お婆ちゃん、老人ホームに入った方がよくない?」
「大丈夫、すぐに治る」と言い、腰をさすった。
彩也香は、ちょっとだけホッとした。
顔色は悪くない。「痛てて」と言いながらも、
壁を伝って部屋の中を歩くこともできる。
「おむつとか、どこへ運びましょうか」
「隣の部屋へ頼むわ」と、遠くから指を差された。
ふすまの扉を開ける。「え!」彩也香は、
目の前に迫るようにそびえ立つ山に驚いた。
そこは、仏壇のある座敷だった。
ずっと使われていないらしく、
納戸のようになっていた。
その広い畳の部屋いっぱいに
積み上げられていたのは、
ティッシュペーパーと介護用おむつだった。
いったい、どれくらいあるのか見当もつかない。
ドラックユタカの店頭の在庫よりも
多いことは間違いない。
6か月分、いや1年分ちかくもありそうだ。
「そこへ積み上げておいとくれ~」
遠巻きにお婆ちゃんの声が聞こえた。
(これはどういうことなの?)彩也香は、
ひょっとして・・・と訝しんだ。
お店に来るときは、
かなりしっかりしっかり者に見えた。
でも、実は、相当に認知症
進んでいるのではないか。
目の前に、こんなにもストックがあるのだ。
忘れて買い置きしているわけではなさそうだ。
昔、親戚のおばさんに聞いたことがある。
認知症の症状の一つとして、
買い物依存症が出るというのだ。
叔父さんもそうだった。
いつも吸っているマイルドセブンライト。
机の上にも、ポケットにも入っているのに、
自動販売機を見ると買ってしまうのだった。
たくさん手元に置いておかないと、
不安になるらしい。
そのため、いつも100箱以上の買い置きがあった。
(息子さんに連絡をして、
一度病院に連れて行ってもらった方がいいかも)
彩也香は、介護用のおむつの山を見ながら、
溜息をついた。
それから5日後のことだった。
高橋のお婆ちゃんが、元気な姿を見せた。
「もう大丈夫」と、大きなカボチャを
3つも抱えてレジに置いた。
「みんなで食べてな」「ありがとうございます」
「それから・・・またこれだけ
用意してくれんかな。
車の運転もできるようになったから、
自分で持って帰るから」
「はい、私が用意します」と答え、
彩也香がメモ用紙を受け取った。
(え!?)そこには、ついこの前、
配達したばかりの商品がメモしてあった。
座敷に山となっていた介護用のおむつも……
やっぱり認知症・・・。
「・・・で、でも」
「あんた、なんで介護用のおむつばっかり、
たくさん買い込むんだろうかって、
不思議に思っているんだろう」
「え?・・・は、はい」
「あまり人には言わんでな」
「・・・」
彩也香は、真顔のお婆ちゃんを見つめた。
とても認知症の人には思えなかった。
「お爺さんは、寝たきりになってしもうたが、
ちゃんと毎日、わたしと話をしてくれとる。
めったには出掛けなかったけど、
宮崎とか北海道とかに旅行に行ったことは
何度も話すんだ。楽しかったな~、
美味しかったな~、てな。
そんな同じ話ばかりしてもうすぐ
7年が経つんよ。
長いようで短いなあ。お爺さんには、
これからもずっとずっと長生きしてもらいたいんよ。
私よりも先に死なれたら、辛くてたまらん」
彩也香は、とつとつと話すお婆ちゃんの
瞳を見つめていた。
「おむつがなぁ。1ヶ月分しか家にないとな、
不安になるんよ。
あと1ヶ月しか生きていられんような気がしてな。
2ヶ月分しかないと、あと2ヶ月で死んでしまうような。
それでなぁ。3ヶ月月分、4ヶ月分とな、
だんだんと増えていってしまって、
とうとうお座敷いっぱいに
なってしまったという訳なんよ。
たぶん、1年分くらいはあるんじゃないかな。
でも、まだ不安なんよ、わたし。
お爺さんには、1年ばかりじゃなくて、
何年も何年も生きていて欲しい。
下の世話もわがままも何でも聞いてやるから」
彩也香は言葉を失い、ただそこに立ち尽くした。
気が付くと、頬に一筋の涙が伝っていた。

それから、半年ほどが経ったある日のことだった。
高橋のお婆ちゃんの旦那さんは、
風邪がもとで気管支炎を患い、
あっという間に亡くなってしまった。
そしてそれから2週間後、
お婆ちゃんが店にやってきた。
「ユタカさん、ありがとうね。
おかげで、お爺さんも天国に安心して行けましたよ」
思うよりも元気そうでホッとした。
「そろそろ、片づけもしなくちゃならんのだけど、
なかなか手が付かんくてね」
「しばらく、ゆっくりして下さいよ、お婆ちゃん」
「うん。でもな、野菜はどんどん芽を出すしな、
畑仕事は休めん」「そうですね」
「ところでな・・・ちょっとな、
あんたに相談があるんよ」
「相談」と言われて、彩也香は少し嬉しくなった。
何にも役に立てずにいる自分に苛立っていたからだ。
「あのなぁ、あのお座敷のおむつなんだけど、
一緒に手伝って処分してもらえんかなぁ。
いつか、わたしが必要な時が来るかもしれんけど、
あれを見ると、お爺さんのことを思い出して辛くてなあ」
「もちろんです。もしよかったら、
返品に応じさせていただきます」
「え? 返品??」
「はい。たしか、レシートをきちんと
保管していらっしゃいましたよね、お婆ちゃん」
「あ、うん・・・お爺さんの癖で、
菓子箱に全部入れてあるよ」
「1年前のものは返品できないっていう
決まりはありませんから」
「え? 本当にいいんかい・・・会社から叱られん?」
それは彩也香が、
『ずっとずっと決めていたこと』だった。
残念ではあるけれど、
きっとこの日が来ることを考えていた。
「お爺ちゃんが亡くなられて、年金だけじゃ
ますます生活がたいへんでしょ。返金分で、
お孫さんに何か買って差し上げてください」
高橋のお婆ちゃんはうつむいて動かなくなってしまった。
足元の床に、ポツリポツリと、涙が落ちた。
彩也香は、それを見て見ぬフリをして大声で言った。
「今日は、カボチャの料理でも作ろうかな。
美味しい煮物の作り方、教えてもらえますか?」

《終わり》
『ずっとずっと決めていたこと』志賀内泰弘

馴染めない職場



時は絶えず流れ、
 今、微笑む花も、明日には枯れる


努力する者は希望を語り、怠けるものは不満を語る



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2.拭き傷
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4.ボデー面の退色・艶消え
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