流れ雲

繰り返しと積み重ねの過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく、神戸発信

メジャーでは無いけど、
こんな小説あっても、良いかな !!

信じれば真実、疑えば妄想……

アングラ小説です、不快感がある方は、
読むのを中断して下さい.


知られざる命 
Author: 壇次郎
北海道を舞台に、歴史に翻弄された
小さな命がありました。
太平洋戦争から近代に至る出来事に
感動される物語です。
誰もどうすることの出来ない悲しい事実が
ありました。
命の大切さを考えさせられます……  


知られざる命-序章-
昭和18年になると、すでに日本中は
どこも激しい太平洋戦争一色になっていました。
泰蔵は十歳、真里子は八歳になっていました。
まもなく、父、弥助にも赤紙がやって来ました。
身体の小さかった弥助でも、近所の男たちより遅ればせながら、
お国の為に尽くせる日がやって来たのでした。
泰蔵が見ていた父親は、夜遅くまで働いている姿ばかりでした。
それでも泰蔵の楽しみは、父と一緒に銭湯に行くことでした。
泰蔵にとって、母、おばあちゃん、真里子と一緒に女湯に入るのは、
もう恥ずかしく、父と男湯に入り身体を洗ってもらうことに
喜びを感じる年頃になっていました。
泰蔵には父の漕ぐ自転車の後ろに乗せてもらい、
川に釣に行った思い出もありました。
当時はヤマメ、イワナが面白い様に釣れました。
泰蔵が釣り針を川底の石に引っ掛ける度に、
弥助は膝上まで水に浸かり針を外しに行ったものでした。
弥助 「泰蔵、魚ってもんはなぁ、
 目が良いから、あまり大きく動くと逃げられるべや」
泰蔵 「でも父ちゃん、水の中からこっちが見えるのかい?
 俺が風呂屋で潜っている時、全然見えないよ」
弥助 「当ったりめーだべさ。人間と魚は造りが違うんだ。
 魚はおめえみていに目、ぱちくりしねえべぇ。
 だから、見えんだべさ!」
泰蔵 「父さん、また、根がかりだよ」
弥助 「しょうがねえなぁ・・
 いいか、こうやって餌を流すんだ。
 餌を川底にくっつけちゃだめだ」
弥助も泰蔵も、バケツいっぱいに魚を釣ると、
その日はいくつもの塩焼きになった魚が
夕食の食卓に上っていました。
他にも、正月に浜辺で凧揚げをしたことや、
竹馬を作ってもらったこと、
竹とんぼの作り方を教えてもらったことなど、
思い出はたくさんありました。
泰造にとって、父、弥助と共に過ごした時間は少なくても、
思い出は大きな存在になっていました。
同じく、泰蔵と一緒に過ごした弥助にとっても、
子供たちと過ごした時間は、
とても幸せな思い出になっていました。
弥助の出征する日がやって来ました。
駅のホームで大勢の人に見送られる中、
弥助はそっと泰蔵と真里子の元にやって来ました。
弥助は真里子に何やらつぶやいていましたが、
何を言っているのか、周りの雑踏にかき消され
誰にも聞き取ることは出来ません。
弥助は次に泰蔵の元にやって来ました。
「生きて帰る」なんて言葉は
一言も口に出せない周りの雰囲気の中、
弥助は泰蔵の頭に手を置き、誰にも聞こえない様に
笑顔でそっと泰蔵につぶやきました。
「帰って来たら、また、釣りに行こうな・・・」
泰蔵には数少ない父との思い出でしたが、
泰蔵にとって、父は優しくたくましい存在でした。
父との思い出は数少ない分だけ、
どれも、とてつもなく泰蔵自身の心に大きく残っていました。
しかし、泰蔵が聞いたこの時の父の言葉が、
弥助の最期の言葉になったのでした。
動き出した汽車の中、弥助の目は、
彼の妻、華の目をじっと見つめていました。
「万歳、万歳」と叫ぶ人々の大きな声の中、
弥助の姿が見えなくなると、汽車はどんどんと
スピードを上げはじめました。
やがて、ホームから離れて行く汽車の後姿は、
みるみるうちに小さくなって行きました。
離れて行く汽車を見つめていた華は、
涙の流れ出すのをじっとこらえている様子でした。
そして、泰蔵と真里子の手をぎゅっと握り締めていた
華の手には、悔しさが力となって現れていました。

続く

Author: 夢庵壇次郎
http://www.newvel.jp/library/pso-1967.html

愚人は過去を、賢人は現在を、狂人は未来を語る

 

歌は心の走馬灯、
 歌は世につれ、世は歌につれ、
  人生、絵模様、万華鏡…

風の音にあなたを感じ
 花の香りにあなたを想う
  そんな一途な歓びを
   歌に託して唄います



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  今日という日は贈り物、
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美空ひばり 『都々逸~さのさ』


時は絶えず流れ、
  今、微笑む花も、明日には枯れる