流れ雲

繰り返しと積み重ねの過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく、神戸発信

知られざる命

メジャーでは無いけど、
こんな小説あっても、良いかな !!


信じれば真実、疑えば妄想……

アングラ小説です、不快感がある方は、
読むのを中断して下さい.

知られざる命 
妄想劇場
Author: 壇次郎


北海道を舞台に、歴史に翻弄された
小さな命がありました。
太平洋戦争から近代に至る出来事に
感動される物語です。
誰もどうすることの出来ない悲しい事実が
ありました。
命の大切さを考えさせられます……  


第五章 消えてゆく街

終戦後、帯広に戻った裕子は、
恩師の勧めで、小学校の正式な教員資格を取り、
都会から離れた小さな炭鉱の町に来ていました。
日本の石炭産業は、戦後、息を吹き返し、
北海道でも各地に大小さまざまな炭鉱が出現していました。
炭鉱の街では、どこも、日本各地から
大勢の工夫が集まり、賑わいを見せていました。
また、山は昼夜を問わず、二十四時間石炭を掘り続け、
三交代勤務の炭鉱夫たちが、炭住(炭鉱住宅)と
山の間を絶えず行き来していました。
裕子は、炭鉱の街の小学校で、
六年生の生徒二十名のクラスを受け持っていました。
生徒の大半が炭鉱夫の子供たちでした。
そんな子供たちの中で、一際目立つ男の子が一
人いました。名前は大介と言い、
皆よりも頭一つ飛びぬける大きな身体の子供でした。
その子は、二人の弟と一番末に妹が一人いる、
四人兄弟の長男でした。
大介にとって勉強は苦手でしたが、
優しくしっかりした子供でした。
大介はいつも明るく、みんなの人気者でした。
こんな大介でも、誰にも負けない得意なものがありました。
それは、毎年行われる秋祭りの子供相撲でした。
身体の大きな大介は、小学校入学以来、
相撲で負けたことがありません。
上級生を相手にしても立会いと同時に
相手を土俵下に突き飛ばす程の力がありました。
そして、大介の最も嬉しかったのが、
優勝して貰える多くの賞品でした。
裕子 「はい、今日のお勉強は、ここまでです。
明日はお祭りで学校はお休みです。
皆さん、怪我の無い様に楽しんで下さいね。」
子供 「裕子先生も、お祭りに行くの?」
裕子 「そうねぇ・・・。
大介君のお相撲の応援に行こうかな?」
大介 「へへ・・・、俺のつえーところ、
先生に見せてやるからね。」
裕子 「先生も楽しみにしてるね。」
翌日の相撲大会は、抜ける様な青空が広がっていました。
大介は、皆の予想通り順調に勝ち進み、
決勝戦でもあっという間に相手を土俵下へと
突き飛ばしてしまいました。
その時です。土俵下の審判部長をしていた
町内会長が大声で言いました。
「大介、おめぇ今度は、中学生の部に出てみろや・・・」
なんと、それを聞いた観衆からは、
大きな拍手が沸き上がりました。
大介は、その時、少し戸惑いを見せましたが、
気持ちが切り替わったかの様に、
次第に表情が険しくなって行きました。
町内会長は、まわしを付けて出番を待つ
中学生たちに対し、気合を込めて言いました。
「おめえたち、小学生に負けるんじゃぁねえぞ!」
たいした休憩も無く、中学生部門の取り組みが始まりました。
なんと大介は、一回戦、二回戦と
危なげなく勝ち進むではありませんか。
大介は、とうとう、決勝戦まで勝ち進んでしまいました。
やはり決勝ともなると、相手は強そうです。
中学校の柔道部の主将です。
身体つきは大介と違い、筋肉が盛り上がっています。
さあ、勝負です。「のこった、のこった」
場内は、行司の掛け声をかき消すような大歓声です。
さすがの大介も今度は苦戦です。がっぷり四つの体制です。
大介がじりじりと寄ったとたん、上手出し投げ・・・、
大介は土俵際で踏みとどまったと思ったら、
再び四つに組みました。
今度は、中学生が自分のまわしを押し付け、寄って来ます。
大介はじりじりと後退し、俵に足がかかりました。
大介はこん身の力で持って、ふんばり、
土俵中央まで押し戻しました。
場内は、割れんばかりの拍手と歓声です。
大介、生まれて初めての大相撲となりました。
大介の両手は相手のまわしをしっかりと握り締めています。
そして、大介の大きな身体がじりじりと寄り始めました。
もう、いくら相手が身体を左右に振ってもびくともしません。
土俵際まで押し込まれた相手の身体は弓なりです。
大介は顔も身体も真っ赤です。そして、とうとう、
二人揃って土俵下へと倒れ落ちて行きました。
その後、場内には一瞬、静けさに漂い、
皆の目は、行司に集中しました。
行司軍配は、な、なんと、
大介に上がったではありませんか。
再び場内は大歓声の渦と化しました。
表彰式、大介は小学生部門と中学生部門の両方から、
抱えきれないほどの賞品を手にしました。
土俵の中央で表彰を受けている大介が、
観客の一番後ろにいた裕子先生を見つけました。
そして大介は、裕子先生に対し満面の笑顔で答えました。
その時の裕子先生が握っていた手のひらは、
汗でびっしょりとなっていました。

時は過ぎ、ある真冬の日の出来事でした。
雪がしんしんと降る午後のことでした。
小学校では裕子先生が生徒を前に
午後の授業をしていました。
一番後ろで座っている大介は、
眠気をこらえきれず、うとうとしています。
そんな中、突如、外で静寂を引き裂く様な
サイレンの音が街中に響き渡りました。
そのサイレンは、炭鉱から聞こえて来ます。
事故です。
炭鉱の構内で事故が発生しました。
さっきまで静まり返っていた教室は、
にわかにざわつきだしました。
子供 「うちの父ちゃん、大丈夫だべか・・・、
お前んち、どうだ?」
子供 「あたしんち、今日は三番方だから・・・」
裕子 「みんな、静かに・・・。静かにして・・・」
子供 「先生、うちの父ちゃん、
今、山に入っているんだ。俺、帰る」
子供 「俺も、帰る・・・」
裕子 「ちょっと待って、みんな・・・。
今、校長先生が様子を知らせてくれるから、
外ではサイレンの音が鳴り続けています。
きっと大丈夫よ。みんな、信じて・・・」
裕子先生は、子供たちを勇気付けようと、
とっさにオルガンを弾き始めました。
泣き出していた子供は少し落ち着いた様子で
泣くのを止めましたが、誰一人、
裕子先生のオルガンに合わせて
歌い出す生徒はいませんでした。しばらくして、
校長先生が教室の扉の向こうに現れました。
校長 「樋口君、ちょっと・・・」
そして、校長と裕子先生が一言二言、言葉を交わした後、
大介一人だけがそっと廊下に呼ばれました。
校長の話によると、炭鉱では落盤事故が発生し、
大介の父親が巻き込まれたとのことでした。
大介は無言のまま、急いで教科書をランドセルに押し込むと、
まだ幼い低学年の弟たちを連れて、
降りしきる雪の中を静かに家へと帰って行きました。
深夜になり、大介の父を含む数名の遺体が
坑道から運び出されました。
大介の母は、安置所に置かれた遺体にしがみつき、
一晩中、声を上げて泣いていました。
その間、大介は、家で弟や妹に食事を与え、
母親に代わってまだ幼い妹を寝かしつけていました。
それは、もうすぐ春だと言うのに、
まだ雪深い日の出来事でした。

炭鉱事故の合同葬儀が終わり、数日が経ちました。
しかし、大介が学校に顔を出すことはありません。
裕子は大介が気がかりで、放課後、
炭住を訪れることにしました。
そこには、いつもの笑顔で大きな身体の大介が、
母親となんやら荷物の整理らしきことをしていました。
裕子 「こんにちは、大介君。先生、心配してたのよ」
大介 「あっ、先生、俺、東京に行くことになったんだ」
裕子 「えっ、東京? どうして、また急に?」
大介 「俺、相撲取りになるんだ」
母 「砂川の町で、大介の噂を聞いたとかで、
以前から東京の親方に誘われていたんですが、
今まで、どうしてもこの子を手放す決心がつきませんで・・・。
主人の葬儀の時、親方がわざわざ
東京からいらしてくれて・・・、
これからの事、親類とも話したんですが、
親方が、大介を東京の中学に通わせながら、
面倒を見てくれるって言ってくれたんです。
大介には申し訳ないんですけど・・・」
裕子 「でも、大介君・・・、
機関士になりたいんじゃなかったの?」
大介 「あぁ・・・、でも、仕方ねーよ、先生」
その後、大介は一旦東京に行き、
卒業式に合わせ再び親方と共に炭鉱の町へ戻って来ました。
その後、大介が生まれ育った街に
戻って来たかどうかは誰も知りません。
ただ、そこには、朽ち果てたプラットホームと、
二度と動き出す事の無い機関車が取り残され、
かつての賑わいを夢見ているかの様に眠っています。
石炭は、時代と言う大きな流れに押し流され、
消えて行きました。
しかし、そんな流れに押し流されようとしている人々が、
今でも日本にいることを、多くの人々は知りません。
続く

Author: 夢庵壇次郎
http://www.newvel.jp/library/pso-1967.html


愚人は過去を、賢人は現在を、狂人は未来を語る


歌は心の走馬灯、
 歌は世につれ、世は歌につれ、
  人生、絵模様、万華鏡…


関東春雨傘、美空ひばり
作詞:作曲:米山正夫


関東一円 雨降るときは
さして行こうよ 蛇の目傘
どうせこっちは ぶん流し
エー エー…
エー 抜けるもんなら 抜いてみな
斬れるもんなら 斬ってみな
さあ さあ さあさあさあさあ
あとにゃ引かない 女伊達(だて)




ひばりの渡り鳥だよ
作詞:西沢爽・作曲:狛林正一


じれったいほど あの娘のことが
泣けてきやんす ちょいと三度笠
逢うに逢えぬと 思うほど
逢いたさつのる 旅の空
ほんになんとしょ 渡り鳥だよ


昨日という日は歴史、
 明日という日はミステリー、
  今日という日は贈り物、


時は絶えず流れ、
    今、微笑む花も、明日には枯れる